まず、『作家の収支』というタイトルになんとも言えないそそられるものがあります。
「作家」と「収支」という言葉は、なかなか同席することがないので、いい意味での相性の悪さを感じます。
武士の家計簿というフレーズも、なかなかに興味深いものがありましたが、それ以上の何か引力があります。
でも、森さんの作品だと分かった時点で、
合点がいく人も多いかもしれません。
なぜなら、森さんは作家業を”金を稼ぐための手段”として捉えている人だからです。
とかく、小説家というと、甘美な響きのある、夢のある商売で、単純に金儲けと結びつけにくいところがあります。
前置きが長くなりましたが、
本書は、作家森博嗣が20年に渡る作家生活に関して、いわば決算報告をしている作品です。
印税の金額の推移はいくらか?
原稿代はいくらか?
作家としての副業の稼ぎはどれほどか?講演、インタビュー、ブログの連載など。
元々理系な方なせいか、冷静に数値化されたデータが丁寧に並んでいきます。
私が本書を読んで感じたことは、
これからの時代”一人社長”企業が増えていくだろうなということです。金銭的な成功を納める人は、一人で起業をする人になるだろうなということです。
なぜなら、ネットサービスの普及で、個人が大企業と直接ビジネスをすることが可能になり、才能を簡単に世に問うことができるようになったからです。
YouTuberやAmazonのアフィリエイトで稼ぐ人などが分かりやすい例です。
また、最近、一人起業やサラリーマンに向けて会社を買うことを薦めた本がベストセラーになっています。多くの企業が副業を解禁、一つの会社に縛られる時代に揺さぶりがかけられています。
森さんは、作家業について、極めて支出が少なくて、リターンの大きい商売だと書いています。
実は作家業は、経費、元手がかからずに、短時間で一人で生み出せる点が最大のメリットであるわけです。ただし、その分、参入障壁が極めて低い世界なので、競技人口が極めて多い世界でもあります。
その、競争を勝ち抜く方法は、(正確には競争はないと主張されていますが)、新しいものを生み出し続けることだと、森さんはいいます。
それも、天才だからできるわけではなく、思考力と発想力という時間をかければなんとかなるもので、超えていくことができると。
まとめると、作家業は、
・誰にでもできる
・元手がかからない
・経費もかからない
・思考力と発想力があればなんとかなる
ビジネスに応用すると、これほど投資対効果の大きいものはない訳です。
ものを書くのは、副業となじみやすいし、お金にもなりやすいと言えるでしょう。
おそらく本書は、小説家や文筆業を志す人が手に取るんだと思いますが、一番読んでためになるのは、中小企業の経営者やブレイクスルーを狙うビジネスマンたちなのではないかと思います。
私はこういう書籍が売れに売れて、企業に勤める人が、本業に割くリソースを 5割に抑えて、残りはやりたいことをやるという時代が早く訪れることを願ってやみません。