書評習慣

書評を中心に様々なコラムやエッセイを書いております。

書評『「ビットコイン」のからくり』吉本佳生 西田宗千佳 2014年

ビットコイン=仮想通貨と聞いて反応はいくつかに分かれるだろう。

 

①損した!二度とかかわりたくない。

②興味はあるけどなかなか手が出せない。

③単語は聞いたことがあるけど、ちんぷんかんぷん。

 

本書は、②③の方が読むと非常に参考になるのではないかと思う。

 

ビットコインとは、元々中本哲史と名乗る人物が論文を書き、生まれた仕組みだ。

中本論文を読んだ技術者達が作り出したのが現在のシステムとなっている。

 

特に2014年マウントゴックスという取引所の破綻によって、一気に知名度が上がったが、

実は、ビットコインの詳細を知るものはあまりいないというのが、今も続いている実態ではないだろうか。

 

この本は、二人の共作だが、吉本氏は銀行実務にも明るく、西田氏はITに関するエキスパート。つまり二人の専門家が手を組みビットコインについて語っているのが本作である。

 

ビットコインの是非については、最終的には個々人が判断すべき問題だと思うが、

なぜ生まれ、どのように進化していくのかについては、知っておくべきであると、読後に思いを新たにした。

 

世界の国々が仮想通貨の規制に走っている昨今であるが、

その国々の通貨がそもそも信頼に値するのか、そのあたりの分析もされているので、

「現代貨幣論」といってよい1冊である。

 

話は少し飛躍するが、アメリカ人は資産を株で保有することが多い国民らしい。

日本人もそろそろ銀行に全幅の信頼を寄せることを見直したほうが良いのではないか?

 

中流層にとっては、銀行は既に「コインロッカー」化していると感じる。

 

ビットコイン(仮想通貨)について理解を深めていくことは、今後の資産運用をどうしていくのか、資産形成をどうしていくのかを考える上で、重要なヒントを与えてくれるに違いない。

 

その後方支援をしてくれる1冊である。






書評『SHOE DOG』フィル・ナイト 2017年

アメリカの大学生は、桁外れに勉強している。

読み始めてすぐに気がついた。

 

本作品は、ナイキの創業者フィル・ナイトのサクセスストーリーだが、

実は、精巧に編集された日記でもある。

 

数十年前のエピソードも非常に克明に綴られており、いかにフィルが優秀なエッセイスト&ルポライターであったかが分かる。

 

その能力を支えているのは、夥しい数の読書に裏打ちされた表現力、背景知識に加え、

何でもメモにとり、残しておく習慣にある。

 

また、ウォーレン・バフェットはフィルを天性のストーリーテラーと呼んでいるが、

それを裏付けるエピソードも紹介されている。

 

息子のために毎日オリジナルの寝物語を語っていたことだ。毎日ネタを探して、アウトプットする。芸人さながらである。

 

彼は、プライスウォーターで会計士をやりつつ、NIKEを立ち上げ、毎日6マイルを走っていた。その極めつけが就寝前の息子への寝物語であった。

 

こんなにバイタリティがある男はなかなかいないだろう。

 

本書には、ビジネスマンとして実際に役立つノウハウが満載である。

交渉の準備、チームのあり方、マネジメント、様々な学びがある。

 

その中でも私は、個人の能力を最大化していくためにどうやって学んでいくべきなのか。それへの回答の書となっていると思う。

 

仕事で多忙を極める男が、走ることを習慣にし、子育てにもしっかりコミットする。今の日本のビジネスマンの中でここまでできる人は一体どれだけいるだろう。

もしかすると、世界にもここまでバイタリティある男はいないかもしれない。

 

本書には、生産性向上にあえぐ現代日本のビジネスマンのいち理想像が記されている。1970年代から、自然と副業がなされ、学生たちが勉強していた。アメリカは歴史の浅い国だが、若者はバイタリティに溢れ、最大の経済大国であることを改めて実感してしまう。



書評『人生に必要な30の腕時計』ガンダーラ井上 2003年

男には2種類いる。時計をつける男とつけない男だ。

 

私自身、時計はつけない主義だった。

だったと過去形にしているのは、つける可能性が出てきたからだ。

 

本書は、人生の様々なシチュエーションに合わせて、ぴったりの時計はどんなものなのか、

著者独自の観点で紹介される1冊だ。

 

たとえば、以下のような場面が想定される。

 

「仕事の折衝で、大物を相手にしなければならないとき」

 

「夜が明けるまで、遊び倒したいとき」

 

「フランスかぶれの彼女を振り向かせたいとき」

 

「小腹がすいたとき」

 

等々。

 

私は今まで時計とは時間を確認するツールであり、上に記載したような具体的な

利用シーンを想像することはなかった。

 

しかし、本書を読むと時計にも様々な「顔」があり、単に時間を確認するだけでは到底片付けられないとても奥深い世界であることを知る。

 

その理由の一つには、著者が元々大手電器メーカーの宣伝部に13年間在籍していることも関係しているかもしれない。自社の製品にストーリーを持たせて販売する宣伝部の社員。やはり、製品の背景を語るのがうまい。

 

モノの魅力を知るきっかけの一つに、そのモノ知られざる背景を知ることがあると思う。

 

たとえば、レマニア・ヨットタイマーという時計は、フリーダイビングの神様ジャック・マイヨールが使っていたことでも知られている時計だそう。ポイントは色彩で経過時間を知らせてくれる機能があること。水に潜る人にとっては、視認性が重要だったということらしい。

 

物事は何でも知れば知るほど面白くなる傾向がある。

他の物事との違いを認識でき、語れる内容も深くなっていく。

 

本書は時計知識を深めたい男子にとっても有益だが、趣味を持ちたいと思っている人、キュレーターになりたい男子にとっても有益なモノとなるに違いない。

書評『人生は、だましだまし』田辺聖子 2005年 

読売新聞の広告で「この国は、本を読まない大人が増えた。だから子供みたいな国になってしまった」という内容を語ったのは、田辺聖子である。

 

本書は、エッセイ仕立てだが、飲み仲間の「フィフティちゃん」と「イチブン氏」との会話を通じ、人間の生態、特に男女のあれこれを通じて、著者がアフォリズムを導き出す示唆に富んだ1冊である。

 

私は田辺聖子をあまり読んだことがないため感じるのかもしれないが、

とにもかくにも、難しい熟語が夥しい数登場する。

 

辞書を引かずにこの本を読み通せる人は、相当博識な人だと思う。

 

先日作詞家の松本隆が出演したテレビ番組でこんなことを言っていた。

 

「作詞家を志す若い人がやっておくべきことは何かありますか」

 

「本を読んで語彙を増やすことです」と発言。

 

言葉を知らないと表現などできないという。

至極当たり前のことだが、意外と見過ごされがちな事実ではないだろうか。

 

絵の具の種類が多いほうが、より色彩豊かな絵画を創造することができるのと同じで、

ボキャブラリーが多いほうが、人生の機微に気づき豊かな表現が可能になるだろう。

 

細かなこぼれ話ではあるが、辞書を引く楽しみも紹介されている。

目的の言葉だけではなく、周辺の言葉の意味も知ることもできると。

 

言語化できることは、物事を相対化して認識できるということ。

つまり、様々なことを客観視できるということだといえる。

 

とかく窮屈で他人に不寛容になってしまうことも多い世の中。

大先輩の言うことにじっくりと耳を傾けながら、語彙を増やしていくと一味違う人生が待っているかもしれない。

書評『舶来屋一代 ~はんどばっぐにほれたおとこ~』上前淳一郎 1983年

高級ブランドの商品が並んでいる場所といえば、

ぱっと思い浮かぶのは、丸の内と銀座である。

 

なぜあの場所にブランド店が集中するようになったのか?

その背景には、ヨーロッパの一流品にほれ込んだ一人の男の奮闘があった。

 

主人公の茂登山長一郎、通称長さんは、戦後の動乱期に闇市の商人としてスタート。

やがて、エルメスやグッチ等ヨーロッパの超高級ブランドを日本に持ち込む時代の寵児

と躍り出る。本書は、太平洋戦争から帰還した男が闇市での仕事を皮切りにブランドを日本に持ち込む第一人者となるまでを描いたノンフィクションだ。

 

絶版のため中古でなんと8000円ほどするが、正直お釣りが来るほどの価値はある。

 

経営者、男は「かくあるべき」ということが学べるサクセスストーリーには違いないが、

本書が出色であるのは、ここに描かれる長さんの「引き際」の見事さである。

 

長さんは、美味しい儲け話なども、嫌な予感がした段階で素早く手を引く。

また、あぶく銭が手に入っても、また稼げばいいと困った人にあげてしまう。

 

起きた事象から教訓を得る抜け目のなさにくわえ冷静な判断を忘れない。

しかし、根っこは厚すぎるくらいの情で人に可愛がられる男だ。

 

このバランス感覚と親しみやすさは、実は女性に奥手だったことも関係しているのではないかと私は読みといた。政治家でも女性スキャンダルがない人は失脚しないケースが多い。

 

そんな長さんの元に足を運ぶ顧客には電通の吉田秀雄や作家の今東光

がいた。この人たちとの掛け合いがまた素敵で物語に引き込まれる要因の一つとなっている。思わず人に話したくなるこぼれ話が満載なのだ。

 

たとえば、ライカのカメラと四谷の80坪の土地の値段が同じだった時代の話、電通富士登山をする本当の狙い、一流ブランドは王宮の近くにあること、などなど。興味深いエピソードが数多く紹介される。

 

時を越えて生き残っていくものとは何なのか。

一流品を追い求めた男の生き様から学ぶことができる。

 

書評『最近捕鯨白書』土井全二郎 1992年

日本で400年の歴史を誇る捕鯨に対する国際的な立場の違いを、主にIWC(国際捕鯨委員会)の動きに沿って1978年~1992年までの約15年ほどの歴史を追っている本書。

 

捕鯨への理解を深められる一方で、根拠なき多数決の有害性を思い知らされるかもしれない。とりわけ米国への不信感は少し高まってしまうかもしれない。

 

捕鯨国の代表格は、日本をはじめ、ノルウェーアイスランド

一方、反捕鯨の旗印を上げ続けているのは、アメリカ、イギリス。

 

捕鯨は、魚食国と肉食国の対立とも言える図式であるが、私にとっては、多数決という民主主義の代表格である制度に疑念をもつきっかけとなった。

 

アメリカは1776年誕生の歴史的には若い国。アメリカが生まれる前から続いている日本の文化に対してとやかくいわれることはけしからんと感じるのも否めないが、ぐっとこらえることにしたい。現実には、世界をリードする強国でもある。

 

アメリカが強硬に反捕鯨の立場を取る背景として、与党議員の立場を磐石にするねらいがあるとされる。アメリカでは会員数が多い団体は、そのまま政治利用されるケースが多い。つまり、選挙の際の「票」になる。

 

捕鯨を盾に国内世論を煽り、票を獲得する。多数決を有利に進めるために必要なほうの立場を取り、「動物愛護」という都合の良いスローガンを掲げ保身に努める。

 

さらに驚いたのは、アメリカの場合、国内法が国際法に優先するという論理である。

自国第一主義を裏付ける根拠となっている。

 

たとえば卑近な例だが、子育てにたとえると「うちは、ベジタリアンなので、おたくでも肉は食べさせないでください。」こんな無茶苦茶な理論がまかり通ってしまうということである。アメリカという国のジャイアン性を感じる所以だ。

 

ただ、貿易摩擦が起こった際、中曽根政権が米国との関係悪化を懸念して捕鯨を断念したように国の行く末を左右する力を持った国であることには相違ない。

 

自己中心的な姿勢を優先し、多数決を是とすると、おのずと一見正しく見える論理をふりかざし、相手を打ち負かそうとするスタイルにつながりやすい。

 

無能な多数決に伍していくためには、どうすればいいのか。

敵側に理解者を作るべく、冷静に知的に行動していくしかないのかもしれない。

 

本書に一部紹介される日本人を蔑視する欧米の新聞記事などを見ると感情的になりたくもなるが、あくまで冷静に科学的根拠を伴って他国と向き合う方が長い目で見て得である。ということも学ぶことができる。

書評『大奥の奥』鈴木由紀子 2006年

教科書に載らない人たちが歴史を動かしている。

本書を読んで得た素直な感想だ。

 

いつの時代もフィクサーと呼ばれる人たちがいる。

歴史の表舞台には立たず裏で糸を引く人たち。とかく悪者が多いイメージだが、

大奥の歴史上も表舞台の主役を圧倒するような女傑が多数存在した。

 

男子禁制の秘められた世界、大奥。

誰もがなんとも言えない魅力を感じているであろう。

 

実際にテレビドラマなどでも放映されると、人気を博すことが多いという。

本書は、その多くの歴史を関連人物を挙げながら丁寧に紹介していく力作である。

 

権力闘争の背景には、人を狂わしたスキャンダルや事件、ルールの設立がある。

本書の一番の魅力はこのあたりのエピソードにあるかもしれない。

 

たとえば将軍のセックスは、あるときから公然と監視されるようになった。

少し理解に苦しむと思う。

 

本文を引用してみたい。

 

「いよいよお気に入りの側室との御寝となる。ここで、現代のわれわれの感覚からすれば信じがたい光景が展開する。六代将軍家宣以後のことと思われるが、(中略)将軍と側室が同衾している寝所に、御添寝役の御中﨟と御伽坊主の二人が、将軍の寝床から少し離れて両側に床をとり、将軍に背を向けて寝ずの番をする。」

 

これは、事の一部始終を御年寄に報告するためだそうだ。閨での側室の言動を警戒することが目的だったそうだ。

 

また、女人禁制の大奥であったが、様々な人が出入りし手におえなくなったこともあった。風紀が乱れ始めると、信じられない検査が始まる。

「下々のものはからだが汚れている」という理由で、大奥に出入りするものは風呂に入れて

性別を確認させられるということもあったという。現代の高校の頭髪検査などまだまだ可愛いものだと思ってしまう。

 

極めつけは、敵対する側室が生んだ子供に対する残酷な仕打ちである。

胸を痛める話も出てくるが、権力の維持のためなら、人はどんなことでも仕出かす

という真実を本書を通じて理解することができる。

 

とにかく登場人物が多く関係性がややこしくなりやすい。

 

ノートに家計図を描きながら読むと、歴史の背景や人間関係を俯瞰することができるので、より楽しみが増すと思う。