平均年収400万円の旅館がある。サービス業界にあっては、特異な存在といえるだろう。
神奈川は鶴巻温泉に陣屋という旅館がある。旅館としては珍しく、定休日が週に2日ある旅館だ。客単価は4万5千円となっており、高い生産性を誇る事例として先日、日経新聞に紹介された。
エルメスは、誰もが知る高級ブランドだが、非常に高価なことでも知られている。
100万円近くするバッグも珍しくない。
両者に共通するのは、ターゲット戦略の巧みさである。
陣屋は、休日を増やしながらも、非日常に対価を支払うシニア層にターゲットを絞り企画を充実させることで業績を回復させた。
エルメスの凄いところは、その誕生から今まで、そしてこれからも巧みなターゲット戦略を取り続けているところにある。
あるときは、「ケリー」でお姫様願望を持つ主婦層をくすぐり、あるときは、「バーキン」で働く女性たちを刺激してきた。エルメスをエルメスたらしめているのは、とにかく高い品質であるとのことだが、その女性を虜にするネーミングセンスも突出している。
また本書を読むと、エルメスがいかに京都をはじめとした日本の伝統文化に影響を受けているかが、分かる。スティーブジョブスが禅を愛し、極限まで無駄を省いたデザインで人気を博すiPhoneを生み出したように、エルメスも日本の伝統文化をデザインとして洗練させ商品化することに成功している。
日本人はもっと足元の魅力に気づきそれを活かしていかないと、逆輸入された舶来品に
右往左往しつづけることになるのかもしれない。
エルメスという圧倒的なブランドへの理解を深めることは、様々な分野のビジネスにおいてもヒントになるが、そもそも自分の国の魅力に気づくことから始めないといけないのかもしれない。
余談だが、エルメスとルイ・ヴィトンの違いは、どこか京都と東京の魅力の違いを思わせるところがある。実際に、LVMHトップのアルノーさんは、東京の10代女性のファッションを見学に日本を訪れたりするらしい。
一方で、一見さんお断りだが、ひとたび入り込むと抜け出せなくなる。
エルメスと京都の魅力は似ているのかもしれない。