人は、成果が保障されていないものを採用する勇気をなかなか持ち得ないものである。
教育の方法については、とかくそうで、「東大に3人入れた母親が教える~」のような、実績を出した人の本は話題になりやすいが、本質的で重要な議論でもタイトルが地味な場合などは、手に取る人が少なかったりする。
モンテッソーリ教育などは、既に実績のある立派な方法論かもしれないが、
藤井四段が受けていたことが、モンテッソーリ教育への信頼向上に拍車をかけたことは間違いないだろう。
本書は、「幼児期」という漠然としたタイトルだが、しつけ、遊び、表現、ことばという4つのテーマで構成される学術書だ。
書店などで本のタイトルを見ていると、目的が明確な新書が溢れている。
特定の課題を解決するための書籍も役立つものとして重要だが、本書は長い目で見たときに、子供に教えるべき重要なことは何なのかを気づかせてくれる一冊だ。
著者の問題意識は、現代の能力至上主義を背景とした、なんでも一人でスピーディにできる人間=社会で使える人間という図式への違和感にある。
能力至上主義が自然と隅に追いやってしまっているのが、身近な人との対話や他人との丁寧なコミュニケーションだったりする。
本書を読み進めていくと、普段見過ごしがな誰もが本心では重要視していることを再確認できる。
昨今は、小さい頃から英会話をやらせたり、プログラミングをさせたりと、とにかく社会でサバイブすることを重視した教育に重点がおかれていると感じる。
親心としては、否定できない部分も往々にしてあるが、それ以上に知らないお年寄りとの会話を大切にしたり、地域社会の子供たちに揉まれる経験を積む方が、自分の頭で考えられるたくましい大人への近道ではないだろうか。
子育て中の世代も孫を持つおじいちゃんおばあちゃん世代も、子育てに活かせる考え方を学べる一冊である。
私は、この本を読んで、子供とじっくり会話することを大切にしようと心を新たにした。