本書は、住友化学で発足されたベクターコントロール事業部の事業、
「蚊帳をアフリカで流通させ、トップシェアを取るまで」を描いたドキュメンタリーである。
筆者は、マーケティングコンサルタントとして独立して事業を行う浅枝氏。
本書は、外部スタッフとしてプロジェクトに携わった彼の目線で書かれている。
通常のビジネス書と一線を画す本書の魅力は、以下の2点である。
国を代表する大企業のタレントの豊富さ、
住友化学は、川上メーカーの代表選手のような企業だが、本作を読むと登場する人たちの優秀さ、魅力に惹き付けられる。個人としていかにスキルアップをしサバイブしていけるかが時代の流れになる一方、組織の中でチームプレーを発揮しながら、仕事をしていく醍醐味についても、余すところなく語られている。
加えて、描かれる各人物を著者がよく捉えており、キャラクターが際立っている。
読んでいて「こういうひといるなあ!」と実感できることはより物語に没入しやすくなる要素として働いている。
上記の2点を鑑みると、つくづく総力戦を行うビジネスにおいては、
餅は餅屋ということを強く実感する。すべてを独力でやることは土台無理な話なので、
いかに味方を増やしながら、目標に向かい前進できるか。その具体例が丁寧に描かれている。
また、主人公神埼=浅枝氏のほかに、物語のキーマンになるのは、事業部長の水野という男である。外資系出身の典型的なやり手ビジネスマンの水野であるが、その視座の高さ、指示のスピード、パワーに有能なマネジメントとしての手腕が際立っている。私も組織に属していたことがあるが、部長より上のレイヤー、事業部長、役員クラスになると、部長にはない特質を備えているケースが多い。
矛盾するかもしれないが、根回しはするものの、空気を読まないという点だ。
水野もそうで、通したい事項については、事前に役員の耳に入れたり周到に用意するものの、現場において意思決定する場合は、部下を信じ(ある意味乱暴に任せ)朝令暮改を恐れず指示を出す。ハレーションを起こす場面もしばしばあるが、目的のためには意に介さない。
敏腕コンサルタントの神埼の考え方やコミュニケーションのとり方、その観察眼を学べる内容でありながら、辣腕マネージャー水野の手腕を見ることができる稀有な1冊である。